SSブログ
2024年04月22日| 2024年04月24日 |- ブログトップ

貴様と俺とは同期同宿の桜 [忘れ得ぬ人々]

貴様と俺とは同期同宿の桜

 写真の5人は、今からは57年前に学校を出て同じ商社の同じ独身寮に住み、ともに青春を謳歌した(と思い込んでいた)5人である。同期入社120名中14名が埼玉県に間近い北多摩の保谷寮に寝起きした。中でもこの5人、なぜか行動パターンが似通って、平日の夜は乗換駅の池袋にあった「赤い風車」なるバーに座っていたり、日曜ともなれば、寮内に響きわたる管理人のマイク、「皆さんお早うございます。雀がピイチクパアチク鳴いてます。今日は絶好の麻雀日和です。」に誘われ、幾たび(しのぎ)を削ったことか。

 この日の出会いの場所は、歌舞伎町の新宿プリンスホテル。すぐ見つかると高を括ったのが大間違いで、新宿駅を出ると半世紀前慣れ親しんだ街とはまるで別世界の高層ビル群。店先に立つ売り子に道を訊くも皆んな首を横に振る(日本語が通じない)。

 漸くたどり着いたホテルのカフェー。老人話しは歴史をどこまでも遡り今度もまた新入社員の頃通い詰めた「赤い風車」の話しになって、或る晩などは二人して飲んでいたら最終電車を逃したので、つい逆さクラゲにしけ込んだ。別々に敷かれた布団の一人がわざと「こっちへ来る?」と言った時、相方が驚いたのなんのって・・・。入社の年の、クリスマス・イブのことだった。

 あの時代、いつも金が無うてなあ、よう会社の共済会から借りたもんだ、と誰か言うので驚いた。この半世紀以上何故か思い込んでいたのだ、上司の許可を得て給与の前借などしたのはきっと僕ぐらいのものだろうと。それを言うと、(くだん)の友に鼻で笑われた、「俺なんかしょっちゅう目一杯借りていたぜ」。

 同期同寮は14人。しかし時の流れが4人を異界へ連れ去ったため、今も世に残るのは10人であるが、ここに集まった5人も、しかし80年の歳月の間には満身瘦躯、中でも3人は大手術の果てに今がある。一人は胸を裂き人工心臓で凌ぎながら冠動脈の手術を受け、別の一人は尿道癌で左尿管と腎臓の一つを摘出するとともに、腹腔内34ヶ所のすべてのリンパ節を切除、のみか最近に至り更に前立腺癌が見付かったため、X線治療を受けている。そして3人目は、難しい膵臓癌はうまく切除できたものの、その後遺症で血糖値の抑制が出来なくなったために、毎日4回のインシュリン注射が欠かせない。

IMG20240420172126.jpg

 夕刻が迫ったので、食前のインシュリンが待つ一人(見るからに後ろ髪が引かれているような風情の一人)と別れ、歌舞伎町の居酒屋に座って若い頃の話しに戻る。酒が五臓六腑に沁みわたる頃だった、とある中年の女性が僕らの席の傍に立っていた。そして問い掛けられた、一体どういうお仲間でしょうか、教えて頂いても宜しいでしょうか?と。誰かが答えると、そのひとの眼にみるみるうちに涙が溢れた、「すみません。つい父を思い出してしまいましたので・・・」。— 一瞬、一同言葉を失った。見ず知らずの他人(ひと)に泣かれたのは、人生初めてのことだった。

2024424日)


nice!(0)  コメント(1) 
共通テーマ:日記・雑感
2024年04月22日| 2024年04月24日 |- ブログトップ