下天の夢 [忘れ得ぬ人々]
下天の夢
織田信長が舞い謡った敦盛の一節は、「人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり一度生を得て、滅せぬもののあるべきか」。だが、昨日2月19日真昼どき、新宿住友ビル47階の東京住友クラブに座った6人にとっても、下天はまるで夢幻のようなもの。知り合ったのは大学に入って最初のロシア語の教室。以来60年の歳月が経っていた。
ともにロシア語を学んだとはいえ、6人を待っていたのは様々な下天。商社に入ってロシア貿易に勤しむ者、航空機に乗って客室の世話を焼く者、或いは高校の教師になって生徒に英語を指導する者・・・。針路も別なら、待っていた幸せも不幸もまた千差万別、孫の成長に目を細める者がいる一方、突然の逆縁に見舞われ、或いは生涯の伴侶を失う者も・・・。
この6人、コロナもあって滅多に会わなくなっていたのに、どうしたことだろう、別れ際、次はこの同じ場所で5月に会おうと誰かが言い出したら、全員が頷いた。時間が、なぜか加速度を増したようである。
(2024年2月20日)
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