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 緑舞台 [巷のいのち]

 緑舞台

  先日そぞろ歩いた六義園の空は安達太良山の空とは違え、僕にはほんとの空だった。おまけに庭園に生い茂る樹々が濃淡様々な緑を纏い、陽と風に戯れていた。秋1カ月以上にわたり紅い衣着て威張ってた“ちいさい秋みつけた”のハゼノキも今じゃ瑞々しい若緑(5枚目の写真)。モミジの若葉の下に垂れ下がる赤い羽根は(写真6枚目)付け根に種の実を宿し、子孫繁栄に向けプロペラの如く風に乗り飛びたちそうな気配。

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  葉陰から点々と湧き出したような薄紅色は、下野(しもつけ)の花。今頃きっと奥日光の戦場ヶ原では、この花が咲き乱れていることだろう。池辺で長い首を折り曲げて佇むのは、留鳥のアオサギ。庭園はのどかな昼下がり。8000キロ彼方では今もミサイル、ドローン、弾丸が飛び交っているとはとても思えぬ風景だった。

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2023530日)


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ほんとの空 [巷のいのち]

ほんとの空

 少年時代に読んだ高村光太郎の詩集『智恵子抄』の中に「あどけない話」という詩があった、「智恵子は東京に空が無いといふ、ほんとの空が見たいといふ。私は驚いて空を見る。桜若葉の間に在るのは、切っても切れないむかしなじみのきれいな空だ。どんよりけむる地平のぼかしはうすもも色の朝のしめりだ。智恵子は遠くを見ながら言ふ。阿多多羅山(あたたらやま)の山の上に毎日出てゐる青い空が智恵子のほんとの空だといふ。あどけない空の話しである。」

 以来、智恵子のあどけない話のことなど綺麗さっぱり忘れたまま還暦を過ぎた頃、山登りを始めた(喫煙で汚れ切った肺を有酸素運動で保たせようと目論んだ)。そして今からは13年前の20107月に、二人の老朋友(らおぽんゆう)とともに福島県に旅し、目指したのが日本百名山の安達太良山(1700m)、ほんとの空を見に行った。のに、ああ無常、漸くたどり着いた頂上は深い霧がたち込めて智恵子の青い空を隠してた。

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 先日の524日は久し振りの快晴に誘われ、半年ぶりに駒込の六義園に入ると、この季節に来たことがなかったせいか、瑞々しい新緑が眼に眩しく、それよりも何よりも心を奪われたのは、淡いブルーの五月晴れのもと、樹々の緑を掠めるように飛ぶ雲の白さだった。

 智恵子さん、喜寿を越した瞳には、東京の空もほんとの空のように映ります。

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2023529日)


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君たち、中国に勝てるのか [読後感想文]

君たち、中国に勝てるのか

  全く畑違いの分野の本に手を出した。4人のもと自衛隊幹部が台湾有事を視野に日本の安全保障を語る座談会形式の本である。2018年防衛計画大綱策定時、居並ぶ自衛隊幹部に向かっていきなり『君たち、勝てるのか』と問うたのは、時の総理・安倍晋三。彼はまた、「(尖閣を巡り)戦争になれば自衛隊員は何人死ぬのか」とも問うている。それはともかく、本書を読んで特に印象深かった点を以下に列記したい:

♢尖閣有事に際し日本政府は日米安保に期待しているが、アメリカは「尖閣は日本で対処せよ。アメリカは台湾で手一杯」というか、「日本は、自分は何も尖閣防衛の努力をしてないくせに俺たち米兵に戦えというのか、ふざけるな」という態度である。

♢小国ウクライナは国を挙げてロシアと戦っている。一方、2021年に79ヶ国を対象に実施された世界価値観調査によると、「もし戦争が起こったら、国のために戦いますか」という質問に対して、日本の「はい」は13.2%(最下位)、「わからない」は38.1%(トップ)だった。

♢日本だけで勝つことは無理です。日本はアメリカの世論に対し、「日本も自ら血を流しても国を守る意思がある」と思わせなければなりません。アメリカは民主主義国家だから、その時の世論に引き摺られます。バイデン大統領がウクライナに派兵しないと言ったのは、世論調査で国民の67割が「派兵すべきでない」と答えたからです。

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 コロナ日本上陸以来2年続いた老々散歩も、昨夏ヨーロッパに旅した連れ合いがオランダで転倒、骨折以来、絶えて久しいが、先月はおのれ自身が家で転倒、入院したため、このところ一人散歩さえ、天気によっては控えがちである。先日久し振りにいつもの道をたどるうち、懐かしい2種類の黄色に出遭った。いずれも弟切草の仲間の金糸梅(きんしばい)と長い雄しべを一杯生やした未央柳(びようやなぎ)だった。もう一年経ったんだ、と思う自分の他に、また一年生きたんだと思う自分を見て、ふと狼狽えていた。

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2023528日)


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ワンダー(R.J.パラシオ) [読後感想文]

ワンダー(R.J.パラシオ)

 10カ月前パソコンでアマゾン・プライムの無料映画「ワンダー君は太陽」(2017年米国制作)を観て、主人公が奇形な顔を持つとても変わった映画なのに凄く感動したことがあった。その後、映画には原作の小説「ワンダー」があることを知り、図書館から翻訳本を借り出した(読み終える頃に英語の原作も借りたが、これは読むためではなく、最初と最後の原文のニュアンスを知りたいと思ったためだった)。

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 小説そのものが特異な形式で、主人公オーガスト(愛称オギー)を含む子供5人の独白から成り立っている。オーガストは奇形な面相ゆえに、小学校には行かないでいたが、10歳の齢に漸く通学を始める。それからの1年に起こる様々な出来事が、オーガストや姉、同級生たちそれぞれの視線から独白形式で語られる。

 学校でオーガストを見るほとんどの生徒はぎょっとなって遠ざかり、それを敏感に感じ取る本人もまた鋭く傷つく。そんなオーガストが最も安らぎを覚えるのは、生徒全員が仮装に身を包むハロウイーンの日だった。色々な出来事を経るうちに、オーガストとも心を通じ合える友達がいくたりか出来たが、大部分はなおよそよそしいままだった。そのうち、オーガストの特異な容貌が原因で他校の上級生グループとオーガストの僅かな味方の間で喧嘩が始まると、なんとそれまでオーガストを避けていた同級生までもが加勢に駆けつける。

 物語を締め括るのは、一年後の終業式。式の終わりに校長先生から、今年の学業とスポーツのそれぞれで模範的だった生徒の名前が発表されたあと、最後に、その行動で最も多くの者を魅了した最優秀賞の対象にオーガストの名前が発表されると、生徒、教師、来賓の全員が起立、割れんばかりの歓声に包まれた。

 物語の出だしは、オーガストのセリフで始まる、「自分がふつうの十歳の子じゃないって、わかってる(I know I`m not an ordinary ten-year-old kid)。(中略)もしも魔法のランプを見つけて、ひとつだけ願いをかなえてもらえるなら、めだたないありきたりの顔になりたい(If I found a magic lamp and I could have one wish, I would wish that I had a normal face that no one ever noticed at all)

 そしてエンディングもまたオーガスト、「『ありがとう、オギー 』ママはそっと言った。『なにに?』『オギーがママたちの人生にくれた、すべてのものに。うちの家族に生まれてきてくれて、ありがとう』ママはかがみこみ、ぼくの耳元にささやいた、『オギーはほんとうに奇跡。すばらしい奇跡』」(“Thank you, Auggie,”she answered softly. “For what?” “For everything you’ve given us,”she said. “For coming into our lives. For being you.” She bent down and whispered in my ear. “You really are a wonder, Auggie. You are a wonder.”

 原作が米国で出版されたのは2014年、以来世界で600万部以上が売れたという。「ワンダー君は太陽」として映画化されたのはその3年後のことだった。小説の語り部はすべて子供である。なのに何度も涙ぐんだのは、歳のせいであろうか?

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2023520日)


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ロシアがロシアを爆破する(共著:リトヴィネンコ、フェリシチンスキー) [読後感想文]

ロシアがロシアを爆破する(共著:リトヴィネンコ、フェリシチンスキー)

 邦訳の題名は『ロシア 闇の戦争』。しかし、これでは何のことか要領を得ないが、ロシア語原題は『ФСБ взрывает Россию(ロシア連邦保安庁がロシアを爆破する)』と言うのだから、<ロシアの保安を司る中央省庁(旧KGB)自らがロシアを爆破する>となり、これはただ事ではない。本書は、1956年にロシアに生まれ1978年に米国に移住した歴史学者フェリシチンスキーと、1962年生まれのロシア人でロシア連邦保安庁職員の時に英国に亡命した(2000年)リトヴィネンコの共著。但し、ロシアでは禁書扱いのため2002年以降ロシア以外の約20ヶ国で出版されている。

 本書は、19998月~9月にロシア各地で発生したアパートの爆破テロ事件(5ヶ所、死傷者681人)は、噂のチェチェン人のテロリストによるものではなく、実はFSB(ロシア連邦保安庁)自身による偽装テロであって、目的は第2次チェチェン紛争(19998月~20094月)を誘発することにより国民の危機意識を高め、もって2000年春の大統領選をFSB(ひいてはプーチン)に有利に展開しようと目論んだものであることを告発したものである。至る所にロシアのいろんな都市や施設名、FSB他省庁の関係職員名が暴露されており、老化した脳味噌にはとても処理しきれないほどである。

 19998月と言えば、無名に近いプーチン(FSB長官)がちょうどエリツィン大統領により首相に抜擢された直後であり、その4か月後の12月にはエリツインの引退に伴って大統領代行に就任した時期に当たる。

 告発内容が余りにも凄まじく、且つ錚々たる顔ぶれを目にすると、つい空恐ろしくなり、ために180頁から先は拾い読みに切り替えたが、ここに書かれた内容が事実なのか、未だに半信半疑の状態である。

 なお、著者の一人リトヴィネンコは329日付投稿「ザ・プーチン 戦慄の闇」に記載した通り、200611月亡命先のロンドンで何者かにより放射性物質ポロニウム210により毒殺された。その直前の10月にはモスクワで、チェチェン紛争で批判的な記事を書き続けたロシア女性アンナ・ポリトコフスカヤが自宅アパートのエレベーターで、これも何者かにより射殺されている。おお、怖わ!

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202358日)


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時代小説『羽州ぼろ鳶組』 [読後感想文]

時代小説『羽州ぼろ鳶組』

 4月下旬の入院(4泊)を挟んで、今村翔吾の羽州(出羽の国:秋田県、山形県)ぼろ鳶組シリーズ11冊目の長編時代小説『襲大鳳(かさねおおとり)』を読んだが、とんでもない時間がかかった。およそ300年前、安永時代の江戸を舞台に、何人もの火消し侍や火消し町人が大火相手に死闘を繰り広げる痛快この上もない活劇であるが、その火消しの数が多い上にそれぞれが強烈な個性に溢れている。シリーズの大半(1冊目~9冊目)を読んだ4~5年前は、こいつぁ面白いやと次から次に読破した。以来4年・・・・と言っても、後期高齢の4年は尋常な時の流れと異なるのか、記憶の中の登場人物の特徴がいつの間にかすっかりあやふやになっている。

 その上、その登場人物がやたら多い。「あとがき」で作者自身も認めている―「それにしても登場人物の多いシリーズだと自分でも思います。江戸時代を舞台にした、いわゆる時代小説ではもしかしたら最多ではないか。」

 いや、老齢に起因する、あるいは転倒事故による記憶の喪失はすべて本人自身の問題である。この先、本が読めなくなったらどうすればよいか不安は残るが、先ずは読む本を厳選しようと思う。ということで、手つかずだった桜木紫乃の官能小説「緋の河」と「孤蝶の城」を今日図書館に返却した。

 さて、件の『襲大鳳(かさねおおとり)』のこと、苦労の甲斐があったのか、後半に至り筋も漸く噛み合ってストーリーに没入、気がついたら大団円を迎えていた。ぼろ鳶シリーズは、やっぱり面白い。

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202355日)


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「チェチェン化」するロシア(真野森作・著) [読後感想文]

「チェチェン化」するロシア(真野森作・著)

 ロシアのチェチェン紛争のことを何度か耳にしたことはあったけれど、遥かに遠い国の内紛ゆえ馬耳東風と聞き流していた。ところがここへきて、プーチンの目付きがどうも気になり、そして突然思い出した、無名の彼が国民の人気を一躍集めたのはチェチェンの独立運動に対する苛烈な鎮圧であったことを。で、初めて読んだのだ、チェチェン紛争に係るプーチンのロシアに関する本(新聞社のモスクワ特派員がチェチェン共和国を訪れ取材したルポルタージュ)を。

 チェチェンは、ロシア連邦(人口約1.5億人、その80%をロシア人が占めるが、100以上の民族から成る多民族国家)の南西部国境に位置する小さな共和国(人口120万人、うちチェチェン人95%、イスラム教)であるが、ロシアからの独立志向が強く、ソ連が崩壊しロシア連邦が誕生した1991年以降、そのロシアから我も離れると独立を宣言、ためにロシアが軍隊を派遣、第1次チェチェン紛争、第2次紛争を経て、2017年漸く反乱を抑え込んだ。紛争による死者は不明だが、一説ではロシア兵13,000人、チェチェン兵32,000人。現在のチェチェンの最高権力者ラムザン・カディロフ首長は過激派ながらプーチンに極めて従順で、手勢をウクライナへも派遣していると言われる。

 死も厭わず独立したがるチェチェン人を何万人殺戮しても許さないのは非情に過ぎると、極楽トンボの僕などには思えても、多民族国家のロシアにとってはおそらく死活的な問題なのだろう。

 僕自身は、ソ連(ロシア)ビジネスに携わっていた時代にもチェチェンに足を踏み入れたことはない。ただ、そのすぐ右隣りのダゲスタン共和国(イスラム教国)には行ったことがある。30年も前のことだから記憶はほとんど飛んでいるが、ただ老人たちがカードか牌のようなものでのどかに遊ぶ、何とも牧歌的な景色が脳裏を過ぎる。

 チェチェン化するロシア?いや、他人事ではない。4月下旬、僕自身が家で転倒し、直後の記憶を喪失。病院で検査結果、脳の硬膜下血腫と判定され即入院、4泊を経て51日に退院したが、暫くは通院しながら経過を診ることになる。1カ月は禁酒するよう脳外科専門医(副院長)の厳命あり。瞬間、酒無くて何が己の人生か?・・・浮かんだ言葉を飲み込んだ。

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202352日)


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