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 もう一つの侵攻 [読後感想文]

 もう一つの侵攻

 先日図書館から『ソ連が満州に侵攻した夏(半藤一利)』を借り出し、いざ読もうとして、何か引っ掛かるものを感じたので、読書日記を覗くと、ゲッ、200232日読了とあるではないか。特記事項がひとつ、それはド演歌『岸壁の母』の老母が実在していたこと、彼女は東京に住む「瑞野(みずの)失い、召集満州った一人息子に、復員たび舞鶴老母一人息子軍曹日ソ中立条約って満州侵攻ソ連軍激戦玉砕猪俣一員った

 パラパラ捲って中を(あらた)が、不思議岸壁記憶ないった二度虚心心掛再読途端情報った。多分、現在進行中もうプーチンの)侵攻ってと、最近ってった身近親戚国境生還片隅にあったない

 特に興味を惹かされた点をいくつか挙げてみたい。その一、先の大戦末期、満州では関東軍による「根こそぎ動員」により1845歳の男子全員が召集された結果、日本人居留民の家族は老人と女子供だけが残された。一方、今のウクライナでは兵役対象たり得る1850歳の男子に出国禁止令が出された結果、国外に脱出できるのは老人と女子供のみ。

 その二、77年前ソ連は日ソ不可侵条約(と僕は思っていたが、正しくは中立条約)を破って突然満州等に侵攻して来た。不勉強な自分は両者の区別さえ知らなかったが、当時日本が提案した不可侵条約はソ連に拒否され、結果中立条約になった経緯があったという。

 その三、ポツダム会談時のトルーマン米大統領の回想録に「ロシア人にわかるのは力だけである」とある、即ち、「我々は対日戦争にロシアが参戦することを熱望していたが、ポツダムでの経験から、日本の統治にはロシアを一切関与させまいとの決心を固めた。ドイツ、ブルガリア、ルーマニア、ハンガリー、ポーランド問題でのロシア相手の経験は余りにも大変だったので、危険は冒したくなかった。・・・・ロシア人にわかるのは力だけである。(中略)私はロシアを日本占領に参加させるべきではないことを知っていた」。

 その四、日本人50万人以上の行き先が(シベリア送りではなく)日本だと、「案内役のソ連の警備兵もそう信じこんで、日本とはどんな国なのか、自分も一度行ってみたいと思っていた、などと嬉しそうに話しかける。日本兵はなおさらのことで、これで故国へ帰れるかと、帰りたい一心で、長い道を文句もいわず歩いていく」。僕はまた、末端のソ連兵も本当の行き先を知りながら、「ダモイ、東京!」と日本人を騙しまくった、と思い込んでいたが、言われてみて成程と納得。敵を騙すには先ず味方から・・・そうに違いない。

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2023112日)


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少年と犬 [読後感想文]

少年と犬

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 2020年度第163回直木賞受賞作『少年と犬』(馳 星周)は、実に奇想天外な物語だった。何しろ主人公は多門という名の犬。釜石での子犬時代に2011年の東北大震災に遭い、飼い主を津波で失う。以来孤独な野犬になるが、なぜかいつも南を目指して野を歩き、川を渡る。途中、人に出遭うと、たちまち気に入られて飼われるが、その人は程もなく死んでしまうのでまた一匹に戻り南に向かう。そんなパターンが5回も続く。飼い主の5人の人間はいずれも個性的で、最初はチンピラの若者、次は泥棒外人、山男、娼婦、末期膵臓癌の老人と続き、死因はそれぞれ事故死、刺殺、墜落死、自殺、誤射殺とユニークである。そんなこんなで5年の歳月を費やして辿り着いた熊本で、運命的な出遭いが待っていた・・・がしかし、時は2016年、まさに熊本を大地震が襲う年だった・・・。

 話しの展開にまさかまさかと思いながら読むのだが、情景が抵抗なく脳裏に浮かぶので、面白おかしく読み進めた。犬を飼ったことがない僕だが、犬って可愛いんだなあって、つい思ってしまうこともいくたびか。

 そして最後に「少年と犬」が出遭うあたりでは、何度も目頭が熱くなった。どうやら歳のせいで涙腺が緩んでしまったようなのだ。改めて思う、直木賞はやっぱり面白い。

202317日)


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同床異夢(ラーゲリより愛を込めて) [映画感想文]

同床異夢(ラーゲリより愛を込めて)

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 「ラーゲリより愛を込めて」なる映画が封切り上映中と、奇しくも大学同期のA君と、最後の職場の同僚B君からの、それぞれの便りに触れてあった。調べると主人公が山本幡男(はたお)というで、思い出。5年前10月、ノンフィクション「収容所から来た遺書(辺見じゅん)」を読んで、いたく感動したが、それが今頃映画化されたのだ。

 年が明け、ひとり電車に乗って浦和へ行き、映画館の最後列に座って驚いた。今日は正月2日、映画の舞台は70年も昔のシベリアのラーゲリ(強制労働収容所)、なのに観客席は満杯で、70歳以上の老人はどうやら我一人、あとは殆どが若者だった。

 映画が始まった。主人公を演じる俳優は見知らぬ人、脇役の中にテレビで見たよな顔もいるが、誰だかは見当もつかない。しかし今スクリーンで展開する出来事が僕の幼少時、シベリアと日本で実際にあったことだと思う途端、涙が溢れて仕方ない。山本幡男が病に倒れ、死の床で書いた家族への遺書を、戦友6人が分担して記憶し合い、3年後(終戦11年目)の最後の引き揚げ船「興安丸」に乗って帰国後、それぞれがそれぞれに記憶した遺書の部分を、妻の山本モジミに伝えるシーンに来ると、静まり返った客席で思わず嗚咽が込み上げて来たのを必死に抑えた。

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 家に帰る帰途、考えた。何故あの映画が、この今に生きる若者に人気が出たのだろう?そして思った、もしかして、現在進行中のロシアによるウクライナへの侵攻を目の当たりにした彼らは、かって日本人が蒙った悲劇を見詰め直そうとしているのではないだろうか?

 その日の夕食のとき、おもむろに、「いやあ驚いたよ、あんな昔のシベリア抑留の映画なのに、客席は満席、それも殆どが若者なんだ・・・」と言い掛けたら、女房殿、「ああ、あの映画ね、ジャニーズの二宮和成が出てるからじゃない」と、にべもない。その夜、映画を紹介してくれたA君、B君それぞれに感想のメッセージを送った。すると返って来たコメントは、何と女房のそれと大同小異。

 情報音痴とは、僕のことだった。

202313日)


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