同床異夢(ラーゲリより愛を込めて) [映画感想文]
同床異夢(ラーゲリより愛を込めて)
「ラーゲリより愛を込めて」なる映画が封切り上映中と、奇しくも大学同期のA君と、最後の職場の同僚B君からの、それぞれの便りに触れてあった。調べると主人公が山本幡男というので、思い出した。5年前の10月、ノンフィクション「収容所から来た遺書(辺見じゅん)」を読んで、いたく感動したが、それが今頃映画化されたのだ。
年が明け、ひとり電車に乗って浦和へ行き、映画館の最後列に座って驚いた。今日は正月2日、映画の舞台は70年も昔のシベリアのラーゲリ(強制労働収容所)、なのに観客席は満杯で、70歳以上の老人はどうやら我一人、あとは殆どが若者だった。
映画が始まった。主人公を演じる俳優は見知らぬ人、脇役の中にテレビで見たよな顔もいるが、誰だかは見当もつかない。しかし今スクリーンで展開する出来事が僕の幼少時、シベリアと日本で実際にあったことだと思う途端、涙が溢れて仕方ない。山本幡男が病に倒れ、死の床で書いた家族への遺書を、戦友6人が分担して記憶し合い、3年後(終戦11年目)の最後の引き揚げ船「興安丸」に乗って帰国後、それぞれがそれぞれに記憶した遺書の部分を、妻の山本モジミに伝えるシーンに来ると、静まり返った客席で思わず嗚咽が込み上げて来たのを必死に抑えた。
家に帰る帰途、考えた。何故あの映画が、この今に生きる若者に人気が出たのだろう?そして思った、もしかして、現在進行中のロシアによるウクライナへの侵攻を目の当たりにした彼らは、かって日本人が蒙った悲劇を見詰め直そうとしているのではないだろうか?
その日の夕食のとき、おもむろに、「いやあ驚いたよ、あんな昔のシベリア抑留の映画なのに、客席は満席、それも殆どが若者なんだ・・・」と言い掛けたら、女房殿、「ああ、あの映画ね、ジャニーズの二宮和成が出てるからじゃない」と、にべもない。その夜、映画を紹介してくれたA君、B君それぞれに感想のメッセージを送った。すると返って来たコメントは、何と女房のそれと大同小異。
情報音痴とは、僕のことだった。
(2023年1月3日)
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