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少年と犬 [読後感想文]

少年と犬

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 2020年度第163回直木賞受賞作『少年と犬』(馳 星周)は、実に奇想天外な物語だった。何しろ主人公は多門という名の犬。釜石での子犬時代に2011年の東北大震災に遭い、飼い主を津波で失う。以来孤独な野犬になるが、なぜかいつも南を目指して野を歩き、川を渡る。途中、人に出遭うと、たちまち気に入られて飼われるが、その人は程もなく死んでしまうのでまた一匹に戻り南に向かう。そんなパターンが5回も続く。飼い主の5人の人間はいずれも個性的で、最初はチンピラの若者、次は泥棒外人、山男、娼婦、末期膵臓癌の老人と続き、死因はそれぞれ事故死、刺殺、墜落死、自殺、誤射殺とユニークである。そんなこんなで5年の歳月を費やして辿り着いた熊本で、運命的な出遭いが待っていた・・・がしかし、時は2016年、まさに熊本を大地震が襲う年だった・・・。

 話しの展開にまさかまさかと思いながら読むのだが、情景が抵抗なく脳裏に浮かぶので、面白おかしく読み進めた。犬を飼ったことがない僕だが、犬って可愛いんだなあって、つい思ってしまうこともいくたびか。

 そして最後に「少年と犬」が出遭うあたりでは、何度も目頭が熱くなった。どうやら歳のせいで涙腺が緩んでしまったようなのだ。改めて思う、直木賞はやっぱり面白い。

202317日)


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