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ウクライナ裏面史物語(宝島社) [読後感想文]

ウクライナ裏面史物語(宝島社)

 

 友人紹介のこの本を図書館から借りて中を開くと、写真と文章が半分づつでとても読み易そうなので、時流に乗って売らんかなの安直本、と思ったら、違っていた。ウクライナにド素人の自分が言うのもおこがましいが、その創世記から今日のゼレンスキーに至る歴史が暗黒面(裏面)を含め、実にフェアーに扱われていると感じたからである。

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 読みながら、この国が過去いかに過酷な運命にあったかを再認識せざるを得なかった。蒙古軍により13世紀にキエフが陥落して以降1991年のソ連崩壊まで実に751年もの間、ウクライナの地は蒙古のみならずリトアニア、ポーランド、オーストリア、ロシアの各帝国の支配下にあった。

 あまつさえ他国支配下のその地で、おぞましい出来事が起きている。例えばそれは、ポグロム(ユダヤ人迫害)。1920世紀にかけて発生したポグロムの結果、10万人以上のユダヤ人が殺害された。例えばそれは、ロマ人(ジプシー)の迫害。彼らは差別を受け、多数が殺害されている。例えばそれは、ホロドモール(餓死)。ソ連誕生後まもなくのスターリンによる自作農撲滅と農業の集団化政策により、数百万人が餓死している。

 だが、その新生ウクライナが、1991年独立後の経済危機の中とはいえ、いくつかの疑問の余地のある行動に手を染める。財政破綻により売る物が無くなった挙句、死の商人となりテロリスト等に兵器の大量輸出をしたこと。或いはまた、空母を売って中国に初めての空母「遼寧」を備えさせたのみならず、同国に2000人の軍事技術者を派遣、中国の軍需産業のレベルを向上させたこと。更には、北朝鮮の誘いに乗ってミサイル技術者を派遣し、同国のミサイル技術を飛躍的に伸ばしたこと。

 かてて加えてウクライナは(僕など全くと言っていいほど知らなんだが)、この2月にロシアが侵攻した時点でも名だたる汚職天国のため、欧米の評判がすこぶる悪かったらしい。そもそもコメディアンのゼレンスキーが2019年の選挙で73%という高い得票率で大統領に当選したのは、その前の4年間にわたり放映されたテレビドラマ「国民の(しもべ)」で主人公を演じたからだった。その中で彼は汚職と戦う大統領を演じ、汚職にうんざりしていた視聴者の心をぐっと掴んだらしい。ところが彼が大統領に就任後、政治の腐敗がますます進み、ついには彼自身の脱税による8億5千万ドルもの荒稼ぎの疑惑が浮上すると、人気が一気に20%台にまで落ち込んだ。

 そこに突然起こったのがプーチンによる侵攻劇。主人公が一転、侵略者に向かって拳を振り上げ国民に檄を飛ばすと、状況は劇的に変化した。遠く離れた日本でテレビや新聞を見る僕などに映るゼレンスキーは正義の味方で格好いい。対するプーチンは何とも陰険な目付きで、冷酷無残な雰囲気を醸している。

 77年以上も生きてそれなりに沢山のことを学んだと思っていたけれど、この本を読んでつくづく思うのは、摩訶不思議な世の中のことなのだ。学んでも学んでも、そのそばから確信が壊れて行く。まあいいか、最後に思うことこそ正しいと、そう思い込むしかすべもない。

 ところで第48代横綱の大鵬はロシア系とは言われていたが、この本によれば父親はハリコフ出身のコサック兵で、ロシア革命当時、日本領だった南樺太で日本に亡命した人だった。オデッサには大鵬の銅像まで建てられているらしい。彼は、本当はウクライナの血を引いていたんだ。ほんまこの世は知らぬことだらけ。

 写真の樹は1カ月半前、後楽園の礫川(れきせん)公園にサトウハチローのちいさい秋(ハゼノキ)を訪れたとき、その近くで見掛けた桜の木である。桜は、花と違ってその紅葉を思い出に残そうと思ったこともないが、なぜかこればかりは気に懸かり、思わずスマホを翳していた。

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(2022年12月28日)


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