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「シベリア強制労働収容所黙示録」ともう一つの侵攻 [読後感想文]

「シベリア強制労働収容所黙示録」ともう一つの侵攻

 この本は著者・小松茂朗(一般の戦争捕虜として3年間ソ連に抑留)自身の体験談ではない。彼がもと見習士官の福原三郎(以前紹介した「抑留記」の竹原 潔と同様に戦犯として最長11年をラーゲリで過ごした)から聞いた話しを物語風に綴ったものである。

 ソ連が日ソ中立条約を破って突如満州に侵攻して来た有様を読むうち、ふと既視感に襲われた。それは、いま目の前にあるロシアのウクライナ侵攻のことである。今年224日ウクライナに侵攻したロシア軍は16万人、一方77年前満州になだれ込んで来たソ連軍は何と150万人。当時満州にいた関東軍は75万人だったが、その大半は現地招集のポンコツ部隊。ソ連軍は軍用機3,500機、戦車5,500両、火砲26万本という物凄い機動力、対する関東軍の機動力は皆無に近く、僅かに旧式の歩兵銃が二人に一つ、のみならず弾丸の予備がほとんどないという有様だった。

しかもしかもだ、この本によるとほとんどのソ連兵の手首に数字の刺青があり、中には足首に鉄の輪が嵌められていた。即ち、満州に侵攻したソ連兵の多くは直前まで監獄に閉じ込められていた囚人であって、彼らは「満州で略奪、強姦、殺人をくりかえした囚人部隊」(同書288頁)であった。そんなことは、恥ずかしながら初耳である。ソ連が第2次世界大戦(彼らの言う、大祖国戦争)で囚人を対独戦線に送り込んだことを知ったのもつい先月のこと、竹原 潔の「抑留記」を読んだ時だったが、同じことが対満蒙(対日)戦線でも起きていたなんて。

今度のウクライナ戦争でも、ロシアが服役中の犯罪者の罪を許す代わり彼らを戦線へ動員しようとしていることを、ちらっとマスコミが触れていたように思う。この「シベリア強制労働収容所黙示録」によると、囚人を兵士として使うのは帝政ロシア時代までは無かったそうだから、このやり方は社会主義の下で生まれたが、ロシアは、資本主義に形を変えてもなお、この伝統を墨守していることになる。

いずれにしても罪人を兵士に仕立てるなんて奇抜な話しは、これまで僕が触れて来た読み物や映画等ではついぞ見たことも聞いたこともないが、それが単に自分自身の不勉強のせいならどんなによいだろう。人生のうち膨大な部分をソ連・ロシアとの係わりの中で生きて来ただけに・・・。

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20221216日)


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