ザ・プーチン 戦慄の闇 [読後感想文]
ザ・プーチン 戦慄の闇
1991年末にソ連が崩壊すると、手元に残ったのは焦げ付いた巨額のソ連(ロシア)向け債権ではあっても、新規ビジネス・チャンスは絶望的だった。そしてソ連から生まれ出たアゼルバイジャン国の首都バクーに駐在した3年余の世紀末が、僕の商社人生の最後となった。新しい世紀が開けるとともに転職し、以来ロシアも旧ソ連圏も振り返るまいと決めて生きて来た。
そして22年が経ったとき、ロシアが突如兄弟国のウクライナに攻め込んだので、仰天、何が何だかさっぱり分からぬまま参考になりそうな本を読み始めた。今度のはノンフィクション『ザ・プーチン 戦慄の闇』、著者はアメリカのジャーナリストのスティーヴ・レヴィン。ロシアによるクリミヤ併合の6年も前に出た本だが、ちょうどプーチンが大統領に初当選してから2期目を終えるまでの8年を対象に、ロシア政治の裏に迫る野心作のようである。
それにしてもプーチン王国は長い。メドヴェージェフの傀儡政権(4年)を含めると、すでに20年以上の君臨だ。この物語が採り上げているのは、2000~2008年のロシアの裏社会で生じた主な事件(それもクレムリン、なかんずく連邦保安庁絡み)のうち、特にプーチンに楯突いた人々に起こった出来事に焦点が当てられている。例えばそれは、オルガルヒ(新興財閥)のボリス・ベレゾフスキーの亡命とロンドンでの自殺事件、或いはロシア連邦保安庁職員アレクサンドル・リトヴィネンコの亡命とロンドンでの放射能物質による毒殺、そしてウクライナ人女性ジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤの射殺事件である。
そのアンナが書いた『プーチニズム』の読後感想文を今月初旬、3回に分けてこの場に投稿したが、その時は知らなんだことを今度の本に教えられた。彼女は2006年、48歳の時、自宅アパートのエレベーターの中で何者かに射殺された。知らなんだのは、『ザ・プーチン』を締め括る次のようなことだった;
「アンナ殺害前、娘ヴェラは女の子を妊娠していると知った。子供になんという名を付けるか、ヴェラもアンナも悩んだが、そのときは結論は出なかった。
5か月後、子どもが生まれた。
今度は迷わなかった。
アンナ、と名付けられた。」
(2023年3月29日)