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プーチニズム(その1) [読後感想文]

プーチニズム(その1)

 

 とんでもない本に出遭ったもんだ。仲間内で“怪人”と綽名される旧友が偶々見つけたというノンフィクション「プーチニズム(アンナ・ポリトコフスカヤ著)」を、我も負けじと図書館から借り出して読んで、おっ魂消た。全編これ凄まじいルポルタージュだらけ。舞台は今世紀初頭のロシア。それは、赤色帝国ソ連の崩壊から生まれ出た新生ロシアが資本主義と民主主義の大海で混乱を極めた10年後、ついにKGB(ソ連国家保安委員会、通称「秘密警察」)出身のプーチンを大統領に戴いてすぐの時代だった。

 当時ロシアは、ウクライナ他の旧ソ連内各共和国が独立して去った後というのに、自国内の北コーカサスにあるチェチェン自治共和国(イスラム教国)が独立運動を展開したため、それはならじと、チェチェン人を徹底的に弾圧していた。著者のアンナ・ポリトコフスカヤはウクライナ人の両親から生まれた40代の女性、ロシアの新聞ノヴァヤ・ガゼタ誌の評論員としてチェチェン紛争を取材。「プーチニズム」は、その生々しい記録である。

 読みながらこんなにもはらはらし通しだった記憶は、ついぞ無かった。ルポの現場は常に紛争の最前線で、それはチェチェン現地の虐殺現場の村や、ロシア軍の前線であり、テロで数百人が死亡したモスクワの劇場であり、戦争犯罪を審理する裁判所である。問う相手は千差万別、或いはチェチェンの村人や被疑者のチェチェン人テロリスト、或いはロシアの兵隊や幹部将校、或いは犯罪を審理する検事、弁護人から裁判長まで。著者は現場の証言を求めて、いくたびもチェチェンやモスクワの現場に飛ぶ。ばかりか一度ならず、チェチェン側武装勢力を説得するための仲介役を買って出ようとして、ある時などチェチェンに向かう機上で毒を盛られ、命を落としかけたこともあった。

 著者ポリトコフスカヤはこの本の中で幾度となく、プーチン体制を厳しく批判。ゴルバチョフからエリツィンへと続いた独裁政治から民主主義への流れを、再び独裁へと回帰させようとしているというのが批判の理由である。同書が書かれたのは今を去る19年前、そして出版されたのは同年10月、書名はPutin’s Russia』、場所は英国。ロシアでは今なお出版されていないようだ。

 出版からまる2年経った2006107日、ポリトコフスカヤはモスクワの自宅アパートのエレベーターの中で射殺体で発見された。その日は偶々プーチン54歳の誕生日だった。

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