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母の影(その1) [読後感想文]

母の影(その1)

 

 定職を離れてこの2年半、シルバー人材センターの斡旋で時々老人専用アルバイト稼業に手を染め、小学校の日曜祭日校庭解放の見張り役と、登校日の学童帰宅パトロールを請け負っている。但し前者は今年の格別な猛暑のため78月は中止となり、また後者は日の短い冬場に限った仕事のため、58月の4カ月は純粋な年金生活にいそしんだ。そして9月に入って校庭監視の仕事を再開し、10月はパトロール稼業も始まったところである。さて、現場の小学校の花壇にはこの季節やたら黄花コスモスが咲き乱れるが、その蜜を求めやって来る蝶々は大概が褄黒豹紋(つまぐろひょうもん)、写真のように監視役の視線などどこ吹く風と花から花へ狼藉の限りを尽くしている。

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 先日弟から斎藤茂太の本が二冊送られて来て、面白いから読めと言う。茂太の弟の北 杜夫の「母の影」も面白いから、興味あれば図書館で探すよう示唆された。僕らは男ばかりの5人兄弟だったが、今、娑婆と呼べそうな世間に棲むのは僅か二人となった。図書館の「母の影(北 杜夫)」がすぐ入手できたので、先ずはこれを読み始めた。

 純文学の私小説的エッセイなど久しく読んでいなかったが、なるほど面白い。実は、北 杜夫(次男)も斎藤茂太(長男)も、その父・斎藤茂吉についても名前だけ聞いた覚えがあるだけで、彼らが親子兄弟関係にあることを含め何にも知らなんだ。「母の影」は、杜夫の母親・輝子についての辛辣でありながら同時に愛おしむ追憶のエッセイである。読後の感想は別として、今回は途中「あっ」と思ったことがあったので紹介したい。

 それは即ち、昭和25年の米軍による東京大空襲により斎藤茂吉一家の病院兼家屋が焼失した時、焼跡に戻った杜夫がしたことは、「原形を留めたガレージの鉄の扉に焼木杭(やけぼっくい)で次のような文句を黒々と書きつけた: 『斎藤一家無事。これより青木方に転進す。』『転進』という言葉は、日本軍がガダルカナル島から撤退した際に、大本営発表で用いられた文句である」。

 いや、これを読みながら『転進』という言葉をつい最近聞いたような気がしてよく考えてみたら、それはプーチンの戦争の中だった。ウクライナがハルキュウ州イジュームを奪還した時、ロシア軍は「ドネツク地方へ転進する」と発表。ロシアはもしかしてガダルカナルの大本営発表を真似たのか?

2022109日)


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