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ウクライナ・ダイアリー(ホロドモールとブチャ) [読後感想文]

ウクライナ・ダイアリー(ホロドモールとブチャ)

 

 この本はウクライナ戦争さなかの、現地からの特異なレポートである。なぜ特異かと言えば、僅か2年前に(ロシアが侵攻する前年に)キーウに住み始めたばかりの日本人ジャーナリストによる生々しい記録だからである。著者・古川英治(50歳代半ば、数年前ウクライナ女性と結婚)は2021年まで日経新聞に在籍、モスクワ特派員を2度勤めた。視点はロシア人でもウクライナ人でもない、おそらくは異邦人のもの。

 モスクワ特派員時代の2015年、彼はウクライナを訪れ、ホロドモール(スターリン体制下のソ連で19321933年ウクライナで発生した人工的な大飢饉。強制的な富農撲滅・農業集団化によりウクライナで四百万人以上が餓死)から生き残った89歳の老人から話を聴いた。当時6歳だった証言者は、隣家の母親が餓死した娘の体から肉を切り取るのを目撃していた。そのインタビューから7年後(ホロドモールからは90年後)の2022年、著者は、キーウに侵攻して来たロシア軍撤退後にブチャに残された虐殺現場を実見して、息を呑む。そして後日、日本において学生の一人から「ウクライナの自作自演だという報道もありますが?」と問われ、再び息を呑んだ。

 読んでいる僕自身、何だか最近、テレビや新聞、ましてネットニュースが大変だ大変だと騒ぎ立てても、つい「ホンマかいな?」と疑い深くなっていた。ブチャのことも、だから鵜呑みにはしていなかった(ロシアに10年住んで、多くの善良なロシア人と付き合っていたので、本当であってほしくなかった)。ただ、どちらかと言うと、ロシアのことだからやりかねんなあ、という不安もあった。消すことが叶わない歴史があった。今からは78年前の日本の敗戦まじか、日ソ中立条約を破ってソ連が満州、樺太、千島に雪崩れ込んで来た時に、今回と同じ囚人兵を交えたソ連兵が日本人に与えた非人道的な仕打ちに関する資料は枚挙にいとまなく、そのことは満洲開拓民であった親類の人からも直接聞いていた。

 終戦から46年後にソ連が崩壊した後も、チェチェン紛争に於いてロシア兵がチェチェンで行った非人道的な行為について、女性ジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤの告発本を読んだこともあった。それでもなお、今回ブチャ等で起こったことは何かの間違いであってほしいと願う気持ちがあった。問題は二つ、この戦争の是非そのものと、そのやり方。だからついつい関連本に手を出して、これがその22冊目。なのに今もなお迷える老羊なのだ。

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2023128日)


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