SSブログ

フィリップ・ショート著『プーチン』雑感 [読後感想文]

フィリップ・ショート著『プーチン』雑感

 老生には手に余る大作ゆえに、かの大統領には申し訳ないが、子供時代からKGB勤務時代を含む大半を読み飛ばし、21世紀に入ってからの大統領時代を読み進めた中で、特に印象深かったことをいくつか紹介したい。

プーチンはラスプーチン?

 629日付産経新聞の『産経抄』に面白おかしく、姓プーチンはもともとラスプーチンであったのを、母方の祖父がプーチンに改姓したとあったので、この場を借りて紹介したことがある。ラスプーチンというのは20世紀初頭ロシアのロマノフ王朝で暗躍した通称「怪僧ラスプーチン」のこと。しかし、今度読んだ『プーチン』(伝記)にそんな記述がないので、変に思って別途いろいろ検索したが、プーチン家の姓が以前ラスプーチンだったとの確証は得られなかった。プーチンは、どうも先祖伝来の呼び名であるらしい。

プーチンの任期

 ロシアに於けるプーチンの治世は、大統領の任期が憲法改正により16年、通算12年まで著増結果、任期末の来20245月まで24年間に亘ろうとしている(傀儡政権たるメドヴェージェフ大統領の4年を含む)。ところが彼の治世がそこでは終わらず、30年或いは36年に及ぶ可能性が出て来た。これは3年前の2020年に更なる憲法改正(これまでの大統領の任期をチャラにし、今後はゼロからスタートするという案)が国民投票により承認されたためである。この憲法改正案を発議した議員の名前(ワレンチナ・テレシコワ)を見て、脳裏に一瞬59年前、東京のどこかのステージに立つ彼女の姿が閃いた。1963年に地球を48周した女性初の宇宙飛行士であった。ボストーク6号から呼び掛ける声「Я  чайка」(ヤー・チャイカ: 私はカモメ)が世界のテレビ・ラジオを震わせた。後日彼女が来日した時に、大学でロシア語を学んでいた僕は彼女がステージに立つ日、何かの助っ人に駆り出されたのだった。あの頃20代の彼女も今じゃ86歳、国会議員になって12年、ソ連からロシアへ激動の時代を逞しく生き抜いているようだ。

ウクライナ戦争

 前回の投稿で触れた通り、本書の原作脱稿の文字通り数日後に突然ウクライナ戦争が勃発、ために発刊は一旦延期されたが、戦況膠着の折柄、30余頁を追加することにより発刊に踏み切ったようである。最終章の中でこの戦争に触れた記述のうち、著者の見方と思われる部分を以下に要約してみたい:

♢ アメリカは第2次世界大戦以来、同盟国にも敵対国にも自分の意思を押し付けようとしてきた。一方、ロシアは対等性を求め、それに伴う敬意も求めた。ロシアを戦争に駆り立てた遠景にはそれがある。

♢ 緒戦失敗の原因はプーチンによる彼我戦力の読み誤りで、それを齎したのは、それに至る十数年一連のチェチェン紛争、ジョージア戦争、クリミア併合、シリア内戦の成功体験であろう。

♢ この戦争は親戚殺し(ウクライナ人の4割はロシアに親戚がいる)。ウクライナ東南部は、戦争前は概ねロシア贔屓だったが、今やほとんどがキーウ支持に転じている。

♢ プーチンにとって、失敗という選択肢はあり得ない。もし講和が不可能なら、1953年に朝鮮で起こったような非公式分割線による休戦協定のような形で凍結されるのではないか。

 写真は、先週アパートの庭の樹で見掛けたアブラゼミ二匹。相い寄り添って妖しくも楽しげだった。ふと思った、ロシアとウクライナにもこんな時代があったことを。

IMG20230804165900.jpg

2023811日)


nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感