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夜に星を放つ [読後感想文]

夜に星を放つ

  2022年上半期第167回直木賞受賞作『夜に星を放つ(窪 美澄』を手に取ったのは5月下旬だったから、発売後1年が経過していたが、直木賞受賞作は人気が高いため図書館で順番を待てばまあこんなもんだ。読みたい本は図書館で借りよう、と決めたのは5年ほど前に狭い居室の本棚を捨てた時、断捨離などという大それた発想からではなく、これからはただつましく清く(?)生きようとしたからだった。

 しかしまあ、歳と共に本を読むのが辛くなった。とりわけ時代も場所もすべてが虚構の小説は、経年劣化した知覚にとっては難物で、登場人物が多いと忽ち誰が誰だかこんぐらかって、何度も頁を遡る破目に陥る。その点この『夜に星を放つ』は五つの短編から成っているので比較的には読み易かったが、それでも孫のような世代の主人公たち(小学生から30代前半期)の感覚をどこまで推し量ることができたか、甚だ心許ない。

 5話の主人公は、それぞれに辛い人生を送っている。彼・彼女らは、離婚後、子供にも滅多には会えなくなったサラリーマンだったり、あるいは学校で苛めに苦しむ女高生の場合、突然交通事故で亡くなった母が娘が心配で化けて出て来たり・・・。いずれも暗い人生のはずが、しかし筆は飄々として、苦しい中でも前向きに生きようとする健気な姿を垣間見せるので、読後感はむしろ爽やかだった。

 それにしても、この頃では本に向かうとき無意識のうちに気合を入れている。昔、確か前世紀も半ば頃、石川達三が『48歳の抵抗』という本を書いた。読んだことは無いけれど、そのタイトルに何か中年の抵抗のようなニュアンスを感じていたが、さて今我れ本を前にして()ぎる言葉は、「78歳の抵抗」・・・トーンはただ、限りなくか細い。

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(2023年6月11日)


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