黄金雛(今村翔吾) [読後感想文]
黄金雛(今村翔吾)
昨年11月、第166回直木賞受賞作『塞王の楯』を読む途中で気が付いたのは、この作者・今村翔吾の本を遥か昔に読んだ記憶があることだった。遥か昔に?それはしかし記録を見ると僅か5年前のこと、今村翔吾の『羽州ぼろ鳶組』シリーズにのめり込み、1年の間に全9巻を読んでいた。あわれ細かな筋は忘却の彼方だが、江戸八百八町を舞台に様々な火消し(幕府直轄の定火消し、大名火消し、町火消し)が世のため人のために覇を競う、何とも言えぬ痛快なイメージだけが記憶の底に揺らいでいる。
5年の無沙汰の間にシリーズが12巻に増えていたので、早速図書館から借り出し、10巻目の『黄金雛』に取り掛かったものの、個性豊かな火消しが次から次へと登場するものだから、こんぐらがってしまい、頁を戻って確かめること幾たびか。こんなはずじゃあ無かったと思ったが、5年の間に変わったのは、おそらく読み手の脳味噌の方だろう。
シリーズ10巻目の『黄金雛』には、これまでには無かった筋の展開があった。話しの半ばまでむしろ主人公かと見まがうほどに模範的な火消し職人が、ある日突然火をつける方の下手人に変身する。対決するのは、それまで彼を師と仰ぎ尊敬して来た若い火消し。さて、その先はどうなりますか?・・・・。
てな次第で、今村翔吾の語りに乗って300年前の江戸に遡り、久し振りの夢を見た。偶にはまっいいか、夢を見るのも生きとるうちのことじゃけん。
(2023年2月5日)