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幾星霜経て、芥川龍之介 [読後感想文]

幾星霜経て、芥川龍之介


 


 手許にある芥川龍之介の短編集「藪の中・将軍」と「トロッコ、一塊(ひとくれ)の土」は、故あってこそ図書館から借り出した筈だった。現に手帳には我が筆跡で芥川の短編「神々の微笑」と「おぎん」と明記あり、それは前に読んだ何かの本に触発されてのことだったが、それがどの本で如何なる趣旨だったのか、さっぱり見当がつかない。昔のことは兎も角、つい最近のことさえ記憶がぼろぼろ飛ぶのが怖い。
 芥川をまさか傘寿になって読もうとは思いもしなかったが、気を取り直して件の二編を読んでみると、いずれも所謂切支丹物、しかし特にどうという感銘も残らない。で、何となく更に3編(「藪の中」、「一塊(ひとくれ)の土」、「トロッコ」)を選んで読んでみた。「藪の中」はよく分からないが、「一塊の土」は短いのに何度も笑いと感動を貰い、さすが芥川と思った。そして、「トロッコ」・・・。
 「トロッコ」という題名には漠然とした見覚えのようなものを感じた。主人公の良平は8歳。小田原熱海間軽便鉄道敷設時のトロッコに乗せてもらって喜んだのはいいが、住まいから遠く離れた所で降ろされて、日が暮れる中、泣きながら家路に向かうというだけの、文庫本わずか8頁の短い物語。良平はやがて大人になり妻子を持つ。そして物語は次の文章で締め括られる: 「彼はどうかすると、全然なんの理由もないのに、その時の彼を思い出すことがある。全然なんの理由もないのに?——塵労(じんろう)に疲れた彼の前には今でもやはりその時のように、薄暗い藪や坂のある路が、細々と一すじ断続している。・・・・・
 この部分を読みながら、そこはかとない既視感のようなものを感じ、気になってネットで調べると、ずいぶん昔から(それは僕の子供の頃から)「トロッコ」は一部の中学の国語教科書に掲載されていたらしい。そして読み終えた時、何の脈絡もなく、ある詩の一部を思い出していた、「僕の前に道はない。僕の後ろに道はできる」。調べると、それは高村光太郎の『道程』という詩の書き出しで、しかもやはり長年中学の教科書に採用されていたそうだ。僕の場合はただ前に道が無い上に、後ろの道さえ所々は消えかけているけれど。


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2024124日)


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