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しろがねの葉(千早 茜) [読後感想文]

しろがねの葉(千早 茜)

 久し振りに小説の世界に沈面した。踏み入ったのは、戦国末期の石見(いわみ)の国(島根県西部)の寒村だった。幼いウメが親にはぐれ、ふとした縁で石見銀山の採掘集落に住み着き、成長して娘になりやがて結婚するが、亭主を鉱山の職業病である肺の病いで失い、再婚した相手も同じ病で失う。のみか最初と二度目の亭主それぞれの間に生まれた息子二人まで鉱山病に奪われ、一人老いてゆく女の一生である。と言えば、どこまでも続く坑道みたく滅茶苦茶暗そうなのに、ハラハラドキドキの場面もあれば、ウメが無心に夢を描く時もあり、まるで苦楽綯い交ぜた現世のようだ。時には、妙に艶めかしいシーンまでが待っている。例えば、

「『ウメさん』と掠れた声で龍が言い、そっと擦りつけてくる。母性に近い感情で、躰の中に入れてやりたいと思った。『ええよ』と頭を抱く。熱いものがゆっくりと入ってきて、ますます深く溶け合って、ひとつの生き物になったような心地がした。舌を絡めて、互いの湿った息を吸う。燃え尽きた薪が崩れた気配がして、(とばり)が降りたように暗さが増した」。

 本書「しろがねの葉」は今年1月の第168回直木賞受賞作のため、図書館に予約が殺到、ために今頃漸く手元に届いた次第。物語は、次の言葉で締め括られる、

「もうこの山には誰もいない。谷の家々が朽ち、草葉や木々に呑み込まれていく。無数に穿たれた穴が風に哭く。それでも待っている。指先すら見えない昏い間歩(弊注:坑道)の底から、男たちがわたしの名を呼ぶのを。慈しんだ男たちは皆、あの無慈悲で温かい胎闇(はらやみ)にいる。そこにわたしも還るのだ」。

 IMG20231010122807 (1).jpg

20231014日)


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