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ウクライナ侵攻までの3000日 [読後感想文]

ウクライナ侵攻までの3000

 

 ロシアによるウクライナへの侵攻ほど衝撃を受けた政治的事件はなかった。それは壮年から中年に至る30年を、この2か国を含む旧ソ連との係わりの中で生きた時間のせいだと思う。それかあらぬか、侵攻が始まってから1年が経つうちに、関連する歴史書やルポルタージュを、いつの間にか6冊読んでいた。

今度読んだ『ウクライナ侵攻までの3000日』(大前 仁・著)は、これまで読んだようなアカデミックな読み物とは異なって、現役のモスクワ特派員が取材した生々しいレポートだった。ウクライナ現地での取材は、侵攻開始3年前の春から秋へかけ数回に亘って行われている。その頃は既に、ウクライナ領だったクリミアがその5年前ロシアによって強引に併合されたばかりか、ウクライナの東部と南部において、ロシアに支援された武装勢力とウクライナ軍との間で衝突が頻発。そんな時期に著者はキーウから陸路クリミアに入り首都シンフェロポリ、東端のケルチ等で取材、ウクライナに戻った後は東部の、その後激戦地となるマリウポリを経てドネツク等を廻る。後にはドニプロペトロフスク州や、ゼレンスキー大統領の故郷クリボイログ、更には西部のキーウ、リビウにも足を延ばす。

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著者は全編を通じ、政治家、軍人、親露派武装勢力、ロシア正教報道官、一般庶民の老若男女に問いかける。テーマは、ロシアを、プーチンをどう思うか?問われる側にとっても重た過ぎるこの設問を、著者が訪れる先々で問い続けるために、僕ら読者は様々な反応に触れることになる。

こうした生身の人々の声に加え、ウクライナ国民のロシアやロシア語等に関するいろいろな世論調査結果が時期ごとに変遷する様が紹介されている。例えばNATO加盟賛成者は、20217月時点では50%だったものが、ロシアによる侵攻後は一気に83%へと跳ね上がったというように。

この本の著者は、実は僕の母方の従弟である。読み始めは、妬ましさに心配と好奇心が入り混じり、なんとも複雑な気持であった。だが、読み進むにつれ従弟はいつか従弟ではなくなって、今からは4年前のウクライナに流れていた時間と、そこに住む人々の声を著者共々ひたすら追っていた。

この本『ウクライナ侵攻までの3000日』が上梓されたのは、今からは2カ月前の、著者が3回目のモスクワに特派されて間もない頃である。そして、同書の中で彼がウクライナを駆け巡ったのは4年前の2019年春とあるが、その年の11月に僕は当時仕えていた某官庁の仕事で最後のモスクワ出張の最中、ある夕方彼を訪ねている。奇しくもそこはスターリン・ゴシックで有名な『ウクライナ・ホテル』と道を挟んで隣り合うアパートだった。その晩、久し振りの出会いにしこたま酒を酌み交わした覚えこそあれ、ウクライナはウの字も出なかったと思う。何事も世に疎い我を従弟は慮ったのかもしれない。その頃の僕は、ロシアとウクライナは兄弟国でこそあれ、まさかすでに緊張関係にあろうとは、露ほども思っておらなんだから。

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2023323日)


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