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プーチニズム(完) [読後感想文]

プーチニズム(完)

 

 アンナ・ポリトコフスカヤがこの本で語る事件の多くは、チェチェン紛争に係るものである。例えばそれは、ロシア人将校によるチェチェン人女性の凌辱・撲殺であり、或いはモスクワの劇場で起きたチェチェン人武装グループとロシア治安部隊との衝突。後者のケースでは、200210月、モスクワのノルド・オスト劇場に立て籠った42人のチェチェン武装グループが観客922人を人質に取り、ロシア軍のチェチェンからの撤退を要求。その3日後、ロシア連邦保安庁(旧KGB)の特殊部隊が劇場に特殊ガスを吹き込んだ後で突入し、チェチェン人全員を射殺。だが人質は、子供を含むほとんどがガスにより意識を失い、129人が帰らぬ人となった。

 ポリトコフスカヤはルポルタージュを締め括る最後で語る、「どうして私はこれほどプーチンが嫌いになったのか?はっきり言おう。それは重罪より性質(たち)の悪い単純さ、シニズム、人種差別、嘘、果てしない戦争、ノルド・オスト劇場占拠事件で使ったガス、彼の一期目を通して続いた罪のない人々の虐殺のためだ。なくてもすんだはずの多くの死体のせいだ。(中略)私がプーチンを嫌いなのは、彼が人びとを嫌っているからなのだ」。

 この本を読み終えてつくづく思う、本のタイトルはやはり原題の「プーチンのロシア」の方が相応しいのではないかと。何故なら、著者はプーチンひとりを責めているわけではない。彼を選び、そのやり方に唯々諾々と従うごく普通の市井のひと、その人たちに必死に訴えているように思えてならないからだ。

 いや、この本が出版されてから18年が、そして著者が殺されてからも16年が過ぎている。仮に彼女の見立てが正しかったとしても、それからの長い年月の間にロシアとロシア人は変貌を遂げているかもしれない。そのあたり、不勉強な自分には判断もつかないが、今、兄弟国のようなウクライナを攻めるロシアを目の当たりにすると、ついポリトコフスカヤが語ったチェチェン紛争を連想してしまう。

 さて、ロシアに棲んだウクライナ人のポリトコフスカヤが逝って16年が経つ。今にもし生き永らえていたならば、筆盛りの64歳はいったい何を書くのだろうか。

 

 写真は、この冬最後の児童帰宅パトロールの日(2月末日)、小学校の校庭で見た沈丁花(じんちょうげ)

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(2023年3月4日)

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