回春(2022年初秋) [巷のいのち]
回春(2022年初秋)
秋立つも今年は雨模様の日が多く、日課の散歩も滞りがちである。8月末に欧州に出掛けた老妻が旅先で右足を骨折、ために老々散歩も途絶えてはやふた月、たまの照る日は一人で近所をさまよい歩く。
今年初めて金木犀の花を見たのは10月初旬だったが、それはアパートの9階の部屋に届いた花の香を女房に教えられた朝の、その午後の一人散歩のときだった。黄金色の花は、しかし日を追って萎んでは消えていった。それから10日も経った頃だった。道端に咲いた瑞々しい黄金色を見て、こいつえらい遅咲きだなあと、胡乱な目付きながらも鼻を寄せ、染み来る匂いに我を忘れた。
以下はその夕べ、年寄り3人のラインのやり取りである(彼らはその昔、とある商社に同期入社した仲間であった):
(A君) 昨日NHKの朝のニュースで桜の狂い咲きを報じていた。同じ番組だったと思うが、金木犀の花は二度咲き、三度咲きがあるという。三度咲きもあると言うから、俺達古希過ぎた爺さんたちにも夢があるというもんだ!
(小生)それって狂い咲き?
(B君)Aさんよ。古希どころじゃないよー。喜寿過ぎだぜ!
時として年寄りのやり取りは面白い。僕自身、古希だか喜寿だかよく弁えないで生きてきた。金木犀が二度も三度も咲くことも、一年前の秋、実際に三度咲きに出くわして感動の挙句、そのことをわざわざ『回春』(2021年10月26日)というタイトルでこの場で投稿していたにも拘らず、A君のコメントに出合うまで綺麗さっぱりと忘れていたのだ。
しかしなあ、いま老いを嘆いてはバチが当たる。何といってもここまでは何とか無事に辿り着けたのだから。
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