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母の影(その2) [読後感想文]

母の影(その2

 

 「母の影(北 杜夫)」を読み進めるうち初めて知った、この血族がとんでもなく奇妙な一族であることを。父親の斎藤茂吉はアララギ派の有名な歌人、兄の茂太は随筆家で、当人は「どくとるマンボウ航海記」や「楡家の人々」で有名な小説家。なのにこの3人、揃いも揃って精神科医なのだ。

 杜夫(本名・斎藤宗吉)の少年時代の殆どは母が父から勘当されていたために、母を欠く生活だった。短気で怒りっぽい父は煙たい存在だったが、ある時父の短歌を盗み読んで感動を覚えると、それからも度々盗み読む癖が付き、父への尊敬の念が徐々に高まっていく。そして父・茂吉がついに帰らぬ人となった時の話しには驚かされた。火葬の後、父の生まれ故郷の親族が骨壺から骨の一部を盗み去り、結果、茂吉には墓が東京と山形に三つあると言う。のみか、杜夫本人が骨壺から骨を盗んで自分ちの仏壇に供えたと告白している。さて、この本の主題は母・輝子(てるこ)だが、これまた前代未聞の女傑だから、別途落ち着いて触れてみたいと思うので今はご容赦願いたい。

 

 閑話休題。2年以上続いた老々散歩がもう一カ月以上途絶えている。9月初めに老妻がアムステルダムで転倒し右足を骨折したためである。音楽の道を目指す孫娘と二人、ドイツとオランダに旅をした時の事故だった。そして9月下旬、アパートの9階の自宅で養生中の妻が「ああ、匂うわ」と言い出した。庭の金木犀(きんもくせい)の香りがここまで通って来たのだ。匂いは、しかし僕には届かない。そう言えば、去年も同じことがあった。金木犀は女房には判っても、僕には判らなんだ。嗅覚にはきっと個人差があるんだと思いながら、ふとネットで検索すると、女性の嗅覚は男性の1.5倍近くも鋭いと出た。その日いつもの散歩道を独り辿ると、そこここに黄金色の花が咲いていた。鈍い鼻でもずいと近寄れば、さすがに堪らない匂いが鼻腔に胸につんと来た。

(2022年10月10日)

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