寿命が尽きる2年前 [読後感想文]
寿命が尽きる2年前
著者の久坂部 羊は68歳の医者であるのに拘らず、人間年老いたら出来るだけ病院や医者は避け、健診も控えるよう忠告する。特に延命治療は患者の最後の人生が悲惨なことになるので避けるべしと訴える。そんな著者の父親もまた医者だったのに、著者に輪をかけて長生きを恐れたのは、その悲惨な実態に嫌というほど遭遇したためだった。父親はだから晩年、自由気ままな生活を送り、息子にいくつもの名言を残す。その一つが、「ライオンは野菜を食べない」。父は大の偏食家で、87歳で亡くなるまで野菜にはまったく手を付けなかった。
寿命を迎えた患者には延命措置はすべて無駄で、むしろ有害だから、医者も本心ではやりたくない。救急車も同じで、隊員は内心、どうしてそっと死なせてやらないんだと思いながら、やむなく運ぶのだそうだ。著者によれば、一瞬の事故や、風呂に浸かりながら心臓発作等で死ぬのが、本人的には幸せだろうと(確認はできないが)推測する。この箇所を読んで、あっと思った。今からは半世紀以上前のことだが、初めてフイアンセをふる里に連れ家族に紹介した時、喜んだ祖父が、正月でもないのに家中の障子を貼り替えて迎えてくれた。祖父が急逝したのはその2か月後。昼間百姓して、夕餉に晩酌を呑んで、風呂に入ったのが最後だったと聞いた。あられもない格好でと長年思っていたが、あれが理想的な死に方だったのか?
締め括りに著者は提案する、寿命が尽きる2年前に踏ん切りをつけ、それからは前向きに構えやり残したことに思い切り挑戦することを。ひとは問うだろう、2年前とはいつなんだ?・・・著者の答えは決まっている、それは今でしょう!
僕今79歳、齢のせいか、その言葉が心を鋭く貫いた。
(2023年12月14日)
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