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プーチン(フイリップ・ショート著) [読後感想文]

プーチン(フイリップ・ショート著)

 こんなの見付けたよ、ってさり気なく旧友がラインで見せびらかした本のタイトルは、『プーチン』。予約手続きを経て、図書館から現物を渡されると、ずしりと重いので驚いた。上下2巻、合わせて900頁に余る。著者はBBC(英国放送協会)特派員でもあったジャーナリストの伝記作家フイリップ・ショート。人様の伝記を読むのは、かれこれ70年振り。まして存命中の、しかも偉人か悪人かさえ定まらぬ人物の伝記に触れるのは初めてのことだった。

 伝記、いや偉人伝には思い出がある。小学5年生の夏休みの宿題は、読書感想文。図書室から『石川啄木』だったか誰だったかの本を借りて、真面目に読んだはずだが、感想文として提出したのは「あとがき」にあった文章の丸写しだった。ある日の授業中(そのときも僕はいつものように上の空で聴いていた)、先生の口からいきなり僕の名前が出たのでびっくりした。先生は、宿題の感想文の講評をしていた。僕の感想文について、とにかくべた誉めしていた: とにかく凄い。とても小学生とは思えない、このまま行ったら末は芥川賞も夢ではない、云々。

 不思議なのは、そんな先生の言葉を恥ずかしげもなく素直に受け取ったことである。突如読書に目覚めた僕は、以来足繁く図書室に通って偉人伝を読み漁り、やがて文芸小説にも手を出した。すると、それまで5段階でほとんどが23だった通信簿が45に置き換わり、一年半後には卒業生を代表して答辞なるものを読んでいた。それは兎も角、この『プーチン』を著わしたフイリップ・ショート、代表作が『ポル・ポト』及び『毛沢東』とあるので、並みの偉人伝作家ではなく、どうやら奇人変人伝がご専門のようである。

 この夏は記録的な猛暑日が続いている。そのうちの1週間を暑さを忘れてプーチンとロシアの世界に沈湎したのは、この本のお蔭であろう。プーチン誕生から今に至る70年は、即ちソ連時代の後半からその滅亡と新生ロシアの誕生を経て今なお進行中のウクライナ戦争に至る70年に重なる。そのプーチンより8歳年長の僕は、この地球上ずっと一緒に棲んでいたことになる。読みながら、この70年が実に様々な歴史的事件の連続だったことに驚かされた。ベルリンの壁崩壊、ソ連崩壊等の耳に馴染んだ事件もあれば、原子力潜水艦クルスク号沈没事件(乗組員119人全員死亡)等忘却の彼方のもの、或いはシリア紛争等の注意を一顧だに払わなかったものもあり、ひっくるめれば知っていたもの半分、知らなかったもの半分、という塩梅か。

 訳者あとがきを見ると、本書(原作)はもともと20222月半ばに一旦完稿していたようだが、幸か不幸かその数日後にウクライナ戦争が勃発したため急遽書き足すことになったようだ。多分その結果であろう、翻訳版の発行は戦争開始後1年以上を経た2023610日となっている。それにしても伝記ほど難しい書き物はないような気がする。ましてプーチンのようにまだ存命の、しかもあんな戦争を惹き起こした当事者を評価することは至難の業である。著者のフイリップ・ショートは1945年生まれだから、僕の一つ年下(77歳)、ということは物書きとしては結構なお歳であろう。それかあらぬか、著者のプーチンに対する眼差しには、同情と批判が交錯した何とも複雑なものを感じるのだった。

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202389日)


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