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プーチンの戦争(真野森作・著) [読後感想文]

プーチンの戦争(真野森作・著)

 タイトルが意味するのは、まさにプーチンのロシアによる対ウクライナ戦争のこと、但しそれは昨年2月以来進行中のこの戦争ではなくて、その8年前の2014年にクリミヤ半島とウクライナ南東部で既に始まっていた政権側と(ロシアを後ろ盾とする)武装勢力との(表面上は)内戦のことである。この本が上梓されたのは、現下の戦争が始まる3年以上も前の201811月。当時毎日新聞モスクワ特派員であった著者が、20142017年にかけて何度もウクライナの紛争地に飛び込み取材を重ねた結果が、このルポルタージュに凝縮されているようだ。

 昨年2月のウクライナ侵攻は、僕にとっては晴天の霹靂だった。その後何冊か読んだ本のお蔭で、両国間には長年燻り続けていた火種(ウクライナのEUNATOへの加盟問題)があって、2014年に入って以来、様々な事件が立て続けに起こったことを知った。即ち、キーウに於けるユーロ・マイダン革命とヤヌコーヴィッチ大統領のロシアへの亡命に始まり、プーチンによるクリミア半島の併合に続いて起こったドネツク等南東部に於ける(ロシアが支援する)武装勢力との内戦・・・・。それらを僕は、しかし単なる知識(歴史的事件)として受け止めることはできても、実際にはどんな状況だったかを想像することすらできなかった。

 しかし記者によるルポルタージュは、一般的な読み物とは画然と異なることに気付かされた。この本は、1カ月前に読んだ「ウクライナ侵攻までの3000日(大前 仁・著)」同様、その時々のリアルタイムに、現場に限りなく近付いた記者が、事件の真相に迫るべく藻掻く様子が読み手に伝わって来るのだ。読み手はだから、いつの間にか記者に付いてモスクワからキーウに飛び、クリミア半島に移動したり、モスクワから南ロシアのロストフナドヌーを経て国境を越え東部のドネツク市に旅する。そして紛争地に限りなく近付いた所で、互いに対峙し合う軍人・政治家の双方にインタビューを重ね、同時に一般住民の、子どもを含む老若男女の声を求めて駆け廻る。

 著者は読み手の君や僕を、20147月にウクライナ東部のドネツク州で起きたマレーシア航空機事故(子供80人を含む298人全員死亡)の悲惨な現場に案内する。反政府武装部隊にロシアが供与したミサイルによる撃墜と噂される事件である。このルポを著者は次のように締め括る、「記者団の中でしゃがんでメモを取る私の近くに、ひらりひらりとどこからか、小さなシジミチョウがやって来た。顔の前を飛んで、私が握るペンにとまって羽を休める。またひらりと舞い上がって、どこかへ飛んでいった。式典後、空港のロビーで原稿を書きながらそのことを思い出し、急にかなしみに襲われた。あのシジミチョウはどこから来て、どこへ行ったのだろう。墜落現場の強烈な光景が夢に現れ、明け方に目を覚ます日々がしばらく続いた。」

 20172月に著者がキーウで行ったクラフチュク初代ウクライナ大統領(当時83歳)へのインタビューの内容も面白いが、同日会見したウクライナ国立戦略調査研究所コンスタンチン・コノネンコ副所長の発言が強く心に響いた、「本質において、ロシアは我々に対して宣戦布告なき戦争を続けている。」———それは、プーチンがついに宣戦布告を発し、ロシアが国境を越えて雪崩れ込む5年前のことだった。

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2023420日)


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