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物語 ウクライナの歴史(その1) [読後感想文]

物語 ウクライナの歴史(その1

 

 タイトルに惹かれて図書館に予約を入れたこの本、結構な順番待ちなので、てっきり時流に乗って最近書かれた、と思ったら、とんでもハップン。書かれたのが今を去る20年以上も前だから、プーチンのプの字も無かった。

著者の黒川祐次は歴代三人目のウクライナ大使で、キエフ駐箚(ちゅうさつ)19961999年。世紀末のその頃、僕はちょうどコーカサス山麓、カスピ海西岸のアゼルバイジャン国バクーに一人寂しく駐在していたが、そこで初めて黒川大使のことを耳にしたことがあった。偶々バクーを訪れて来た住友金属の部長・安藤 (つとむ)氏が嬉しそうに大使のこと話題。東大時代の同期生、余程仲が良かったらしい。

 さて『物語 ウクライナの歴史』は、その国についてこれまで読んだどの本よりもアカデミックな香りに満ちていた。カルパチア山脈と黒海の北に広がるあの広大なステップ地帯にどんな民族が生まれ、戦い、消えて行ったかが克明に記されている。読んだそばから忘れてしまう老いた脳味噌にはフォローするのさえ難しかったが、語り口が真摯なだけ、読む方も真摯を心掛け、難儀の末ついには読み終えた。

 その地の歴史に最初に顔を見せる部族は、紀元前15世紀のキンメリア人(インド・ヨーロッパ語系)で、その跡を紀元前7世紀のイラン系遊牧民スキタイ人が襲う。ウクライナ人の祖先のスラブ系が登場するのは漸く紀元後、9世紀になって初めてキエフにスラブ国家であるキエフ・ルーシ(キエフ大公国)ができる。統治したのはウクライナ、ベラルーシと今のロシアの一部分。

 キエフ大公国は、しかし1240年に蒙古襲来を受け、消滅する。開闢以来、彼の地に独立国家が存在したのは、そのキエフ大公国の約300年のみ。以来1991年のソ連崩壊まで750年もの長きにわたり、彼の地はタタール(モンゴル)に、その(くびき)が外れた後は、リトアニア、ポーランド、オーストリア、ロシアの各帝国に或いは単独、或いは分割統治されウクライナという名前の国が初めて世界、僅か31年前にソ連が崩壊した時(1991年)だった。いや、ソ連が成立した1922年には既にウクライナ共和国も生まれているから、ウクライナはちょうど百歳なのだ、とプーチンなら言うかもしれない。そのいずれが正しいのか浅学の自分には分からないが、この一年の出来事を眺めたとき、ソ連(ロシア)時代のウクライナが独立国であったとは、とても思い難い。

 

 黒川大使のことを聞いたのは後にも先にも一度だけで、それを語った大使の同級生・安藤 力氏はまた僕とも同世代だった。周りから親しく“あんちゃん”と呼ばれ、副社長にまで昇進したが、2016年、病を得て異界へ旅立っている。

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2023214日)


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