SSブログ

魔の谷 [関東低山紀行]

魔の谷

 

  ユウスゲの道が通る沼の原を抜けると、そこは「関東ふれあいのみち」の尾根道で、朱い鳥居がある相馬山登山口を経てヤセオネ峠に至る。途中の道端で蓮華升麻(レンゲショウマ)のまん丸い蕾が今にも弾けそうに、風に揺れていた。

 IMG_0791.jpgIMG_0787.jpg

  ヤセオネ峠から少し下った車道に、セミが這い蹲っていた。黒い背中の上に黄色いW字の斑紋。こんなセミは見たことがない。こいつもまた短い命を燃やし尽くして、これ以上動くのもままならない様子である。残された時間はあと僅か。しかし雌伏数年を経てようやく世に出た末に車に轢かれては、あんまりだ。両脇を指でつまむとジージーと抗うが、道路脇の草叢に置いてやると、のろのろと這い始めた(あとでネットで調べたら、小蝦夷セミというらしい。もともと樺太辺りから渡来した北方系のセミで、本州では標高1,000m程の山地に棲むという)。

 IMG_20210810_111452.jpg

  車道を離れて登山道に踏み入り、相馬山の山麓をオンマ谷へと下りた。オンマ谷は榛名カルデラ火山の爆裂口があった所だから、御魔谷、つまり「魔の谷」と名付けられたとか。

 IMG_0801.jpg

  谷は灌木が生い茂り、昼なお暗い。台風9号の影響で風が強く、木の葉がざわざわと鳴る上に、全山挙げての蝉しぐれ。ために、いつもは高く響く熊鈴の音は搔き消されて全く用を成さなかった。うす暗い中、背丈の高さに咲く白い花は猪独活(シシウド)。大きな葉っぱの間からぬっくとそそり立つ鎌首は、蝮草(マムシグサ)の包茎が剥けかけた鮮やかな緑の果実であった。

 IMG_0795.jpgIMG_0792.jpg

  谷底を突っ切って、やがて登り返すと長い尾根道が伊香保の町へ下りて行く。風の中、ざわめく灌木と蝉しぐれがいよいよ喧しい。突然視界が開けると、そこは「つつじヶ丘」という展望所。青空の下に赤城山の稜線が走り、直ぐ上に夏雲が棚引いていた。

 IMG_0803.jpgIMG_0806.jpg

  道はなおも続く。最後につづら折りの長~い階段をいくたびも曲がり下って、ようやく伊香保神社に着いた頃には、足が悲鳴を上げていた。しかしバス停は、今朝見上げたあの石段を365段下りた所だ。両手でバランスを取りながら、転ばぬよう一歩ずつ下りて行ったが、日帰り温泉『石段の湯』の前で足が止まった。昨年10月、榛名湖の紅葉狩りの時もオンマ谷を越えて、ここへ寄っている。400円払って湯に浸かる。と、足の痛みが徐々に消えてゆく感じ。ああ、ユウスゲは残念だったが、はるばる来て良かったなあ、と悦に入る我だったが・・・。

2021810日)

 

【追記】翌日から酷い筋肉痛に襲われる。12日の今日も、座ったり立ち上がる動作が必要な都度、自らを声で励まさないとうまくいかない。げに、過ぎたるはなお及ばざるが如し。


nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。